晴れのち曇り ときどき溺愛
「それでよくないか?恋愛ってそんなもんじゃないのか?楽しくて、頑張れて、そして一緒にいて楽ってことは普段どおりの自分でいられるってことだろ。それが恋愛の初めじゃないの?中には電撃的に一目惚れしたりするのもあるかも知れないが、俺らのように長い時間を掛けて育つ恋愛っていうのもあるだろ」


 琉生の言っているのはある意味正しい。恋愛が全て、ドラマチックに出会い、激しく燃え上がるような物ばかりではないのを私は知っている。

「でも、私…」

 きっと叶わないと思いながらも私は恋をしている。そして、初めから失恋が決まっている。


 下坂さんには絵里菜さんという婚約者がいる。絵里菜さんは綺麗でスタイルがいいだけでなく優しくて性格もよくて、何よりも下坂さんに並んでも見劣りすることのない名家のご令嬢。これから下坂さんが仕事をしていく上で大きな力となり、支えることも出来るだろう。全ての気持ちに蓋をして忘れようと思っていた。


 それなのに今朝のキスが…私を揺り動かす。下坂さんの少し乾いた唇の感触をフッと思い出してしまった。


「俺は梨佳に幸せになって貰いたい。ずっと頑張ってきたし、これからも頑張っていく姿を一番近くで見たいと思っている」

「琉生。私…」

「今、返事はしないでいい。一つ言っておくが、考えたくはないが、梨佳が俺とのことを考えられないと思ったとしても、友達として、同僚としての関係はこのままだから」

「それって…」

「お互いに今日の夜のことを忘れればいいだけ」
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