晴れのち曇り ときどき溺愛
 買い物を終わらせて拳のオフィスに着いたのは八時を過ぎていた。弁当を買ってくるように言われていたから拳がお腹が空いていると思いながらも仕事のキリが悪くこんな時間になってしまった。お目当てのデリの店にギリギリ滑り込み、近くのコンビニに寄りスイーツも遠慮なく買ってきた。私も疲れていたから甘いものが欲しかった。

「遅くなってゴメン」

 そう言って入った拳のオフィスには大きな机に座った拳が難しい顔でパソコンに向かっていた。作業台にはデザインには必要な原色大図鑑と配色の見本表、カラーガイドも無造作に置かれていた。カラーガイドは本当に色に迷ったのだろう。日本の物から海外の物、挙句には日本の伝統色や海外の伝統色までがある。


 ここまで準備をするというのはクライアントが色に拘りを持っているか、拳が妥協できないからだろう。

「呼び出して悪いな。それに買い物も助かる。さすがに朝からコーヒーだけだったら厳しい」

「それはいいけど他の従業員は?」

 拳は自分の会社の人結婚すると言っていたはず。食事はその人に準備して貰っていると思っていた。

「修羅場だから先に帰って貰った。自分に余裕がない時に周りに人がいるとイラつく。何も悪くないのにあたられるのは可哀想だろ」

「当たらなければいいでしょ」

「今はマジで人のことを考える余裕はない」
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