晴れのち曇り ときどき溺愛

　琉生は私の言葉を聞きながら、フッと息を漏らした。コーヒーを飲みながら静かに言葉を零した。

「梨佳は随分先に行ったんだな」

「どういう意味？」

「俺と一緒に仕事していた時とは違うってこと。前よりも強くなった気がする。環境が人を変えるというのは本当かもしれない。梨佳はシステム課に移動して苦しんだかもしれないけど、確実に成長している。

　俺さ、拳に一緒に仕事をしないかって言われてる。拳と一緒に仕事をすると、きっと毎日が楽しいだろうし、それに自分を抑え込む必要もない。でも、迷っている。ここの会社にも不満はないんだ」


　琉生ほど営業に向いている人も居ないだろう。この会社でも十分に出世は出来る人材だと一緒に働いていたからこそ分かる。でも、拳の会社は今の会社以上に自由で伸び伸びと仕事が出来るだろう。琉生にとってはどちらを選んでもいい。どちらでも琉生は成功する。


　拳、遥、玲奈に続いて、琉生まで居なくなると私はきっと寂しくなる。でも、それは私が決めることではなく琉生が決めること。

「不満はないけど、格好悪いけど梨佳、お前には未練がある。一緒に並んで仕事は出来ないけど、それでも困ったことがあればお互いに相談したり出来る。でも、拳の会社に行ったら、今までみたいには出来ない」

「琉生…」

「梨佳が俺に対して友達以上の思いがないのも知っている。答えなんか聞かなくても分かっている。でも、俺は自分の気持ちに嘘はつけない。だから、梨佳も自分の気持ちに嘘はつくな。『お前の本当に好きな男は誰なんだ？』」