晴れのち曇り ときどき溺愛
　低く掠れた甘い声が私の耳に届いた。


　私は二度と会えないと思っていた人が目の前にいることに動揺した。驚き過ぎて声も出ない。料亭とかカフェとかなら分かるけど、こんな駅前の仕事終わりの人が溢れるような居酒屋で会うとは思わなかった。優しい琉生が進藤さんに見せる視線の鋭さは初対面の人に向けるものではなかった。

「誰？梨佳の知り合い？」

「見合いの日からもう一度会いたいと思ってた。もう一度会いたかった。五条玲奈さんではない君に」

「進藤さん」


『五条玲奈さんでない君に』

　進藤さんは私が玲奈の身代わりにお見合いに行っていたことを知っていた。そして、玲奈の名前を聞いて顔を強張らせたのは琉生だった。玲奈の代わりにお見合いに行ったことを琉生には話してない


「梨佳。見合いって何？」

「玲奈に頼まれて断ることが出来なくてお見合いした。最初から破談になる予定だったの」


「五条も五条だけど、梨佳。お前もお前だ。いつもお前は人が良すぎる。進藤さんでいいのですか？とりあえず今は俺といるんで遠慮して貰えますか？」
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