晴れのち曇り ときどき溺愛
 営業室に戻っても琉生の言葉が頭から離れなかった。ぶつかってみろとか簡単に言うけどそんなに簡単にはいかない。ぶつかるも何も今、下坂さんは日本に居ない。お祖父さんの件で海外に行ってそのままの状態だった。

「梨佳さん。今日の夕方少し時間ありますか?一緒に食事とかどうですか?」

 絵里菜さんはパソコンの前で仕事が出来ずにいる私に微笑む。その微笑みを見ながら『綺麗な人』だと思う。そして、とっても優しい。下坂さんの婚約者がこんなに優しく思いやりに満ち、その上、その生まれから必ずと言っていいほど支えに慣れる人だった。

 嫌いになれるならよかった。

「いいですよ。どこに行きます?」

「私の行きたいお店がありますが、そこでいいですか?」

「いいですよ」


 琉生のことを考えてしまいそうな夜。一人でいるのがいいのか、それとも下坂さんの婚約者である絵里菜さんと一緒にいるのがいいのか…。それさえも分からない。


 絵里菜さんと業後に来た場所は駅から少し離れたところにあるお店だった。お箸で食べるイタリアンで、お勧めは魚介のクリームパスタだった。女性のプチコースを頼むと今日はレディースディということでデザートとコーヒーが付くらしい。

「ここでよかったですか?」

「ええ。でもかなりお洒落なお店ね」


「ここは兄の経営している会社が出資して出来た店で、コンセプトは『女の子がドキドキ出来る店』です。
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