晴れのち曇り ときどき溺愛
 二人のやり取りを見ながらフッと心の奥が温かくなった。絵里菜さんは嫌かもしれないけど、この進藤さんの絵里菜さんへの構い方は溺愛レベル。


「今日は明日も仕事ですし」

「お兄様が煩いから梨佳さんが帰るって言うんですよ。ガールズトークを邪魔しないでください」

「折角お会い出来たのだからいいだろ」

「邪魔です」

 仕事言って帰ろうと思ったけど、進藤兄妹の勢いに巻かれ、『一杯だけでよければ』となったのは少し経ってから。


 進藤さんと絵里菜さんに連れて行かれた店は、絵里菜さんと一緒に食事をしていた店の最上階にあるバーだった。薄暗い店内には淡いライトの中にグランドピアノが置かれてある。しっとりとした大人の雰囲気の店はさっきの可愛い雰囲気の店とは全く違う。客層が違う。


 ピアノから少し離れた丸いテーブルに案内されると、進藤さんはスッと椅子を引いて私を座らせてくれる。そして、当たり前のように待っていた絵里菜さんの椅子も引いてあげていた。そして自分も空いている椅子に座るとドリンクメニューを手渡しながらニッコリと笑った。


「私の好きなシャンパンがありますが、最初はそれでどうでしょう。アルコールはそんなにきつくないので」

「はい」


 シャンパンが届き、グラスに注がれ…。乾杯をしてグラスを口につけようとした瞬間、静かにピアノの音が耳に届く。


 私の好きな曲…ベートヴェンの『月光』だった。
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