晴れのち曇り ときどき溺愛
 聞き惚れそうになるくらいの優しい指使いに視線を移すとピアノは見えるけどどんな人が弾いているのか分からない。クラシックには詳しくない私だけど、この演奏は好きだと思った。この店の雰囲気にとてもよく似合う。

「素敵ですね」

「ありがとうございます。こちらの店は年齢層を先ほどの店よりも少し高めに設定していますが、諸住さんのように若い方でも楽しんで貰えたらと思ってこの店を作りました。美味しいお酒を飲みながら、音楽と会話を楽しむのもいいものでしょう」

 進藤さんの言うとおりだと思った。

 この店でピアノの音色を聞いていると、仕事の疲れが癒されていくのを感じる。仕事のことも琉生の事もそして、下坂さんのことも忘れ、私はシャンパンを飲みながら心を平静を取り戻していく。


「はい。この頃、仕事も大変だし、悩むことも多かったんです。今日は絵里菜さんと一緒に食事に来てよかったです」

「それならよかった」

「諸住さん。もし良かったら、今度の日曜日に、もう一つ店があるので一緒に行きませんか?市場調査をしてもらいたいんです」

「お兄様!!」

「絵里菜は黙ってて。諸住さん。どうでしょうか?」


 これはどういう意味なのだろうか?単なる女の子の意見を知りたいからというだけなのだろうか?

「あの…」

「これは自分の店の市場調査を兼ねたデートの誘いです。市場調査は口実です」
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