晴れのち曇り ときどき溺愛
 下坂さんの言葉の意味は何なのだろう。素直に自分の気持ちを言える進藤さんを妬むなんて、意味が分からない。下坂さんくらいに自分の意思をしっかりと持っている人が何を躊躇するんだろう。

「下坂さんは素直に自分の気持ちが言えないんですか?」

「諸住さんはどう?自分の気持ちを素直に言える?」


 質問に質問で返すところがズルい。自分の気持ちに素直になって、『下坂さんが好き』って言ったら、きっと下坂さんは困る。

 今回の件できっと親会社である桂川の方に戻ることになり、婚約者である絵里菜さんと結婚して正式に後継となるのに『好き』とは言えない。『好き』だからこそ言えない。


「言えますよ」

「じゃあ、俺のことどう思う?」

「私のことどう思います?」

 さっきのお返しとばかりに私は質問に質問で返してみた。答えは分かっている。『いい部下』とか『一緒に仕事をしている仲間』とか。そんな当たり障りのない言葉だと思う。


「好きだよ。誰にも渡したくないくらいに」

 囁くような声が日常真っ只中の定食屋で甘く切なく聞こえた。聞き間違いかと思ったけど、下坂さんは真剣な表情を私に見せていた。


「意味が分からない」


 頭の中で琉生の声が響く。私の事を見つめる瞳は真っ直ぐで、そして逃げ道をくれない。

『お前の本当に好きな男は誰なんだ?』
 琉生の言葉が胸に突き刺さる。

「隆二にも、川添琉生にも渡したくない。諸住さんが好きなんだ」
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