晴れのち曇り ときどき溺愛
 私も下坂さんも何も言わずに黙々と食事をする。人気の日替わり定食も美味しいはずなのにあまり味がしない。緊張と言うよりは自分の気持ちを測り兼ねていた。好きと言われて嬉しいのに素直になれない私は自分が可愛いだけだった。

 下坂さんの背景も婚約者としての絵里菜さんのことも私は乗り越えるだけの自信がなかった。琉生のいうようにぶつかるほどの勇気がない。下坂さんの気持ちを聞きたかったのに、私は最後の最後で逃げたのだった。下坂さんもそれは言葉にしなくても分かってくれるだろう。


「俺が居ないと生きられないくらいに溺愛する」

 食事が終わって会社までの道を歩きながら、下坂さんは私に向かって静かに宣言した。それは本当にボソッと言う。何を言っているのだろうかと驚いてみると、下坂さんは至極真面目な顔をしていた。


「凄く発想がおかしいと思います」

「さっきの諸住さんの話を聞きながら考えたけど、俺のことが好きなのにそれを乗り越えられないと思うなら、それは俺の努力不足ってことだよね。だから、俺が居ないといけないくらいに溺愛する。そうしたら少しは自分に自信が持てるだろう」

「下坂さん。何を言っているのか分かってますか?」

「分かってる。まずは名前から呼ばせて貰う。諸住さんとか言っていたら、距離は縮まらないだろ」

「え?」

「会社では今まで通りだけど、プライベートで会う時は『梨佳』って呼ばせて貰う。それと色々と焦っているから、職権乱用もするから」
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