晴れのち曇り ときどき溺愛
 琉生のいう通りだと思うけど、下坂さんの真っ直ぐな視線は私の注がれたまま。私は『気になっていた』という言葉と会社まで来たというのに驚いていた。あの時はそんな素振りは全く見えなかったのにと思うけど、よく考えてみれば私と同じようにお見合いの代理なら必要以上に関わるわけにもいかなかったのも分かる。

「梨佳さんっていうのか」

 呟くようにそう言ってから琉生に穏やかに微笑んだように見えた。

「確かに君の言う通りだ。代理の見合いの相手に会いたいなんておかしい。でも、俺は会いたかった。一度でいいから下坂春臣としての俺との時間を作って欲しい」


 下坂さんの飾らない言葉に胸の奥がキュッと痛くなる。でも、素直に頷けなかった。


 下坂さんは私に名刺を渡してきて、切れ長の瞳から放たれる強い光に誘われるように手を出してしまった。出された名刺をその場でいらないというのは社会人として礼儀に反している。でも、貰いたくなかった。この名刺を捨てることは出来ないし、かといって自分から連絡を取ることも出来ないだろう。


「名刺を頂いても連絡はしません」


 思考も身体の動きさえ囚われた私は彼の強い光から目を逸らすしか出来なかった。そして琉生は私の気持ちを読み取る言葉を響かせた。
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