晴れのち曇り ときどき溺愛
「春臣。それは何もかもを飛ばしすぎじゃないか?諸住さんの気持ちもあることだし」

「結婚なんてゴールではなく通過点だ。それに梨佳も俺のことが好きなんだから」

 下坂さんの暴走ぶりに言葉を何も発することが出来ない。それに好きと言うだけの気持ちしかない私に『妻』という言葉が突き刺さる。付き合ってそのうちに結婚というのなら分かるけど、今の状況でどうして『妻』という言葉が出るのだろう。

「諸住さんは春臣のこと好きなの?」

 この二人は親友というだけあって似ている。特に逃げ場がないようにして言葉を迫るところはそっくりだ。それにしても二人のやり取りの中で何で私がこんなにも追い詰められないといけないのだろうか。

「上司として尊敬はしてます」

 私の言葉に進藤さんはニッコリと笑い、下坂さんはキッと目を細めた。地雷を踏んだのは間違いなかった。その後すぐに進藤さんの秘書が来て進藤さんにメモを渡した。そのメモを見て進藤さんは心底嫌な顔をした。

「次の仕事か?そろそろ帰るよ」

「まあ、そんなもんだ。悪いな」

「いや、俺が急にアポをねじ込んだのは分かっているから大丈夫だ。システムの件もよろしく頼むな」

「ああ。そっちこそ、少しは価格に優しさを見せろ」

「考えとく」

「諸住さん。今度は美味しい和食にでもご案内します。誘ってもいいですか?」

「隆二!!」

「さっきは春臣が居ないところで誘ったというから、目の前で誘ってみた。じゃ、また連絡しますね」
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