晴れのち曇り ときどき溺愛
 辞令を見た時は本当に驚いた。下坂さんは親会社に移動だろうと粗方の人は思っていたのに、下坂さんは解雇だった。

 自主退社ではなく解雇というのは何か問題でも起こしたとしか思えない。辞令を見て、私は走っていた。とにかく営業室に戻って下坂さんに話を聞きたかった。

 でも、営業室に下坂さんの姿はなかった。

「あの、今、辞令を見て来て…」

「急だけど仕方ないね。室長が決めたことだから」

 そう言って溜め息を零したのは見城さんだった。

「何で解雇なんですか?」

「解雇というか親子喧嘩だよ。室長は社長と喧嘩してね。で、解雇。いつもは慎重な室長が今回は社長に真っ向と戦いを挑んで、で、返り討ち」

 今まで順調に仕事をしてきた。進藤商事のシステム導入もつい最近プレゼンしたばかり。確かに会社を辞めるかもしれないとは言っていたけど、解雇されるとは言ってなかった。それに由緒正しい家系の御曹司というのは聞いてたけど、この会社の社長の息子っていうのも知らなかった。

「知りませんでした。下坂さんは社長の息子だったんですか?」

「社長と言っても仮。経営には全くタッチしてないんだ。この会社の実質的な支配者は室長だよ。元々、S&Sは経営不振のシステム管理会社で室長が五年前に引継いだ。それから改革をしてここまでにした」


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