晴れのち曇り ときどき溺愛
 私は定時になってすぐに見城さんに挨拶をしてから営業室を出た。バッグの中には封筒に入った万年筆が入っている。ポストに入れるだけでもいいし、インターフォンを押して下坂さんに直接渡すことも出来る。私は教えて貰った住所に向かっていた。

 下坂さんの住むマンションは会社から一駅離れた場所にあり、駅から少しだけ歩いた場所に見える高層マンションだった。三本のタワーからなるマンションの聳えたつ高さに圧倒されながら中に入ると豪華さにまた目を見張る。大理石で覆われたエントランスにはシャンデリアが光り、右の壁際にメールボックスが並んでいる。

 その中に下坂さんの部屋番号もあって、私はバッグから万年筆の入った封筒を取り出した。ガラスの自動ドアの横にはオートロックもある。あれに部屋番号を呼びだせば、下坂さん本人に会うことが出来る。

 下坂さんは自分で自分の道を選んだ。その結果が会社の解雇。

 私はポストに万年筆の入った封筒を入れると帰ることにした。大事なものだから壊れないように静かにポストの中に滑り込ませると駅に向かうことにした。

 二度と来ることのないこの場所に住む人を思い、私は目尻が濡れていたけど頬を伝うのだけは我慢した。
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