晴れのち曇り ときどき溺愛
 大きなソファに座った下坂さんの横で私は身体を預けていた。下坂さんの手は優しく私の身体を撫でてくれ、その優しさに私は目を閉じていた。

 さっきまでの身体の冷たさは下坂さんに温められていく。額に目蓋に頬に唇にと思い出したかのように唇が落とされていく。

「なんでここまで来たのにポストの入れて帰ったんだ」

 インターフォンを押せずに帰った私は弱虫で下坂さんに対峙することも出来ずに逃げてしまった。それなのに自分の部屋に帰ることも出来ず、駅のホームで身体が冷たくなるくらいの時間を過ごしてしまった。あの時言えなかった気持ちも下坂さんの腕の中に居ると素直な言葉にすることが出来た。

「怖かったから。下坂さんに会って、自分の気持ちが抑えられなくなるのが怖かったの。でも、何で私が来るのを知っていたの?」

「見城から連絡を貰ってた。大事なものをお届けしますからって」

「大事な物って万年筆ですか?」

「いや。お前だよ。梨佳。見城は俺が梨佳に惚れていることを知っている」

「え?」

「S&Sが業務拡大をすることが決まった時に合併会社のリストの中に梨佳の会社があったんだ。デザインとシステムの融合に興味もあったから梨佳のいる会社と合併をすることにした。その時に見城には梨佳をシステム課に入れることを話した」

「何て話したのですか?」

「好きな女と一緒に働きたいから、梨佳をシステム課に入れるって」
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