晴れのち曇り ときどき溺愛
「御曹司という肩書も室長という肩書もいらないけど、働いている時の真剣な下坂さんが好きなの。またあの素敵な姿を見せてくれたらとは思う」

 お見合いの時やパーティの姿も素敵だったけど、私が一番好きだったのは真っ直ぐに仕事に向かう姿だった。いつかまたあの姿が見れたらいいと思う。傍に居てさえくれたらそれだけで幸せだと思う。

「無職の俺でもいいの?」

「うん。専業主夫でもする?」

「それって梨佳が俺を養ってくれるってこと?」

「だって、自分の身体だけしかないっていうから、それなら私が働くしかないかなって。一応総合職だし」

 遥が拳にプレゼントした黒のギャルソンエプロンをつけた下坂さんはとっても格好いいと思う。どこで買ったか後からメールで聞こうと思った。仕事に疲れて帰って来た私を下坂さんが待っていてくれると思うだけで仕事も頑張れそうだった。


「じゃ、婚約することに同意してくれるってことでいいかな?俺は梨佳の専業主夫をしばらくするよ。そこそこ料理は好きだから梨佳にご飯を作って待ってる。じゃ、週末に、俺のマンションに引っ越してきて」

「え?引っ越し?」

「俺、専業主夫だろ。専業主夫の家に帰ってくるのが当たり前だろ」

 そう言って笑った下坂さんは私の背中を撫でだした。そして、ゆっくりと首元に唇を寄せてくる。

「え?あの…その」

「せっかく婚約も成立したことだし」

「あの、明日っていうか、今日は仕事なんだけど」

 そんな私の願いは下坂さんの綺麗な微笑みの中に消えて行く。


「梨佳。好きだよ」
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