晴れのち曇り ときどき溺愛
「こうやって梨佳と一緒に机を並べて仕事することもないのか」


 琉生は自分の荷物を段ボールに詰め込んでいく。琉生の荷物は営業に使うものも多いのでそのまま持っていくというけど、私は営業補佐になるから自分で担当を持つこともないので何も必要ない。


 書類も殆どシュレッダーを掛けると仕事に関するものは何も残らなかった。稟議書や報告書の入っているパソコンも部署によっては閲覧さえも制限されるから、しばらくしたらパソコンの中も空になる。段ボールの中に入れた自分の荷物はとても軽かったので自分で持てるのはよかったけど自分の存在が軽くなったようで悲しかった。大学を卒業してからずっと頑張ってきた仕事が失われたとはこういうことだと改めて思った。


 たった一個の段ボールに机の中のものを全部入れてもまだ上の方には隙間がある。それも悲しかった。


「五条はどうするって?」

「玲奈は常務が辞職されたので自分も辞職するって。それでこれからの事を考えるらしい。玲奈なら残って他の取締役の秘書になる道もあったはずだけど、今はそんな気持ちにならないってメールが来た」


 常務の秘書だった玲奈は常務と一緒に退職した。あまりに忙しくて送別会さえも出来なかったのが悔やまれるけど玲奈は『また会えるから』とメールしてきた。

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