晴れのち曇り ときどき溺愛
「井上さん。冊子の作成が終わりました。後は何をしたらいいでしょうか?」


 井上さんは私が準備してきた冊子をチラッとみてニッコリと笑った。


「ありがとう。今はお願いすることは何もないから本棚の中にあるシステム構築の本でも読んでいてくれる?この課がどのような仕事をしていくのかを知っておく方がいい。それに早く私達と同じように働けるようになって貰いたいしね。覚えて欲しいことはたくさんあるんだ」


 今の自分に出来るのがコピーしかなくても、いつか『お荷物』からは卒業したい。


「頑張ります。では少し勉強の時間を貰います」


 私が井上さんにそう言って本棚に行って本に手を伸ばそうとした瞬間、視線を感じた。ずっとパソコンに何かを打ち込んでいた下坂さんは私の顔を見るなり微笑んだ。


「諸住さん。お茶を貰っていいかな?濃いめの緑茶がいい。ついでにみんなの分も淹れてくれる?井上は薄めのお茶がいい。見城はブラックコーヒー。斉藤は砂糖を多めのミルク入りのコーヒー」


 本棚に伸ばされた手がすっと止まり、自分の状況を思い知らされる。私は営業補佐だった。

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