晴れのち曇り ときどき溺愛
「まだ得意先に行く時間には余裕があります。一緒にご飯食べて行っても遅くないですよ」

「私はどうでもいいが、前の訪問の時に絶対に契約を取りたいと言っていたのは斉藤だろ。打合せなしで向かうなら、自分でしっかりと詰めとけ」


 斉藤さんは昼からの得意先のことを思い出したみたいで、急に真剣な表情を浮かべたかと思うと残念そうな表情になった。大事な仕事の打ち合わせとなると仕方ないと悟ったのかもしれない。


「井上さん。今日はカツ丼食べたいです。蕎麦付のセットにしようかな」

「好きにしたらいい」

 一緒に行くのは諦めたみたいだった。


「梨佳ちゃん。今度、俺とも一緒に食事に行こうね」

「よろしくお願いします」

「井上と斉藤は結果が出たらすぐに連絡して欲しい。さ、見城と諸住さんは行こうか。諸住さんは嫌いなものとか苦手なものとかがあればそれは避けるけど」

「特にないです」

「なら、たまに行く店があるのでそこにする。この近くだから諸住さんは行ったことがあるかもしれないな」


 連れて行って貰った場所はビルから歩いて10分くらいだった。

 私は何年も同じ会社のビルに勤めているのに名前も存在も知らなかった。


「知ってた?」

「いえ、初めてです」
< 69 / 361 >

この作品をシェア

pagetop