晴れのち曇り ときどき溺愛
「いただきます」

 出汁の効いた天つゆに大根おろしと生姜を入れたものに天麩羅を少しだけ浸すと、天つゆが天麩羅に染みる。そして、衣が緩くならないうちに口に運ぶとサクッとした歯ごたえを感じた後、じわっと出汁が口の中に広がった。出しはカツオと昆布でしっかりと取られたもので麺つゆとかでは店で作られているようだった。


「美味しいです。サクッとして、でも、出汁も美味しくて」

「よかった。俺もここの天麩羅好きなんだ。出汁は美味いよな」


 私から何か話したらいいのかもしれないけど、やっぱり何も言えなくて。時事についてのことを差しさわりのない程度で話をしながらの時間を過ごした。周りと同じように黙々と食べる私に下坂さんは色々と話しかけてくれる。それは上司としての気遣いを越えたものではなかった。


「そろそろ行こうか」

「はい」


 最後まで下坂さんはお見合いの日のことも、居酒屋での再会のことも全く触れなかった。
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