晴れのち曇り ときどき溺愛
 営業補佐でずっとコピーとお茶くみ、書類整理くらいしか仕事が与えられないと思っていた。営業補佐はいらないとハッキリと下坂さんは言う。前に行く道が開かれたわけではなく、そこに未来に続くかもしれないという扉があるだけだった。もしかしたら壁かもしれない。


「頑張ります」

「確実に知識を自分の物にして欲しい」

「はい」


 自分の席に戻り、机の上に今日貰った資料の束を捲る。分からない言葉は調べ、説明を書いていく。まるで高校生が試験前に教科書やノートに書き込んでいくようだと思ったけど、それ以外に今の私に出来ることはなかった。井上さんは書類を見ていると横に来て、古びた紙束を机の上に置いた。


 その紙束にはインデックスだけではなく何色もの付箋も貼られている。


「これは新人の時から分からない言葉や仕事の上で気付いたことを書き留めているものだよ。さすがにあげれないが、今の諸住さんには役立つと思う。しばらく貸すよ」


 これは引き出しの奥に眠っているものではなく今も使われているもの。その証拠に付箋には新しいものも貼ってある。


「大事なものですよね?」

「室長だけでなく私も諸住さんが成長してこの課の一員となってくれるのを期待している」


< 77 / 361 >

この作品をシェア

pagetop