晴れのち曇り ときどき溺愛
 井上さんの貸してくれた資料は仕事のアウトラインだけでなく深いところまで書き込まれたものだった。読みながら、さっき貰った資料を見ると少しだけ何かが掴めそうだと思った。そして、一つの項目を読み終わった時に私はとんでもない場所にきてしまったと思った。


 前の会社はデザイン系の会社。でも、この会社はシステム系の会社。合併した理由はスタイリッシュなデザインの商品をシステム化していくというもので、綺麗なだけでなく使いやすく無駄をなくすのをコンセプトとしている。お互いの良さを出せればいいけど、それも時間が掛かりそうだった。


 私が頼まれたのはコピーとファックス。そして、郵便にお茶くみ。外を飛び回っていた今迄との全くの違いに動揺はしたが仕事が難しい部署に配属されたのは今更変えようがない。でも、先がないわけでもない。


「諸住さん。悪いけど、みんなにコーヒーを淹れてくれる?夕方はブラックでいいから。で、それが終わったら帰っていいよ」

 下坂さんの言葉に応えると給湯室でコーヒーを淹れる。斉藤さんみたいに上手に手際よくは出来ないが、どうにか間違えずにカップを用意し、コーヒーを注いでいく。そして、お盆に乗せて配ると皆が『お疲れ様』と言ってくれた。

「お先に失礼します」


 最後までコーヒーを配ってしまってから私は言われたとおりに営業室を出た。ドアを閉めた瞬間、フッと肩から力が抜けてしまった
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