晴れのち曇り ときどき溺愛
 スーツを着た姿しか印象にない常務は玲奈の部屋ではシンプルな黒のTシャツにジーンズの部屋着だった。まさに寛いでたとしか言えない姿がここに住んでいることの証明だった。


「面倒くさがるのは玲奈の悪い癖だな。俺に玄関に行かせるから諸住さんが驚いてる」

「だって、ハムを切っていたし。梨佳。驚かせてゴメン」

「何で常務がいるの?」

「一緒に働いていたし、色々と面倒だから黙っていたけど、兄なの。今はずっと一緒に住んでる」

「そんな言い方すると諸住さんはもっと混乱するだる」


 常務が溜め息を吐きながら、私をソファに案内すると玲奈がワイングラスを渡してくれた。そして、並々とワインが注がれる。困ったことに私の好きな白ワインだった。


「とりあえず飲も。で、お兄ちゃんがキチンと説明してくれるから。じゃ、乾杯ね」


 何も食べない状況で飲むと酔いそうだと思ったけど、気持ちを落ち着けるためにも乾杯してからワイングラスに口を付けた。冷たく冷やされたワインは喉を静かに流れていく。ワインの香気がフワッと鼻腔を擽り、肩の力が緩々と抜ける気がした。


「俺と玲奈は母が一緒の兄妹で、母親は俺が五歳の時に俺の父と離婚して玲奈の父親と再婚した。そして玲奈が産まれて、ずっと会ってなかったんだけど玲奈が中学の時に初めて会って、それからはたまに会ってた」

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