魅惑への助走
 女性向けメンソール煙草なので、煙も匂いも控えめ。


 それでも残り香を避けるため、吸い終わった後でガムをかじってから宴会場へと戻る。


 再び入店し、個室へと……。


 その際トイレへと通じる通路を歩いていたら、


 「よう」


 「あ、お疲れ様です」


 片桐に遭遇してしまった。


 偶然向こうもトイレか何かで席を立っていたのだろうか。


 そのまま個室へと戻ろうとしたのだけど、


 「武田さん、だっけ? あんたが今回の原作を書いたADEKA.Tだよな」


 背を向けた瞬間、片桐が話しかけてきたため、


 「は、はい。この度はご出演ありがとうございました」


 一応お礼をしておいた。


 「今回さ、メーカーのほうか頼み込まれて、どうしてもって話だったから、出てやったんだけど」


 上から目線で話を続けてきた。


「「女性向けAVってもの珍しかったから、試しに出てみようって気分になったわけ。だけどセリフが長くてくどいんだよな。普通やる前に、あんなくどくど喋らないし」
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