魅惑への助走
 「さっきも撮影現場で撮影中、物欲しげに俺を見てたよな。俺が女優を後ろから強引に……していた時」


 「何言ってるんですか」


 距離を詰めてくる片桐の言動の意味が分からない。


 撮影現場ではスタッフとして、カラミの進行状況を見守ってはいたけれど、あくまでそれは仕事の一環。


 「自分もあやかりたいって思ってるんだろう」


 自信満々の片桐の表情。


 「……自意識過剰なんじゃないですか?」


 女は誰もが自分に堕ちる、と勘違いしているのかもしれない。


 私もその中の一人だと軽く見られたようで腹立って、再び背を向けた。


 「待てよ」


 いきなり後ろから肩を掴まれ、そのまま壁際に押しやられた。


 そして自らも両手を壁に……俗に言う「壁ドン」という構図で私の逃げ場を奪った。


 「いい加減にしてください。怒りますよ」


 相手は人気AV男優。


 私など無名の裏方だとみなし、馬鹿にしているのだろう。


 「誘ったのはお前が先だろ」


 いつの間にか私が誘ったことになっている。
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