魅惑への助走
 「ずいぶん物欲しげに眺めてると思ってたら、まだ男を知らなかったのか。だからあんなクサいシナリオ書けるんだな」


 片桐の中では、私はそのような設定になっているらしい。


 あの作品は、欲求不満の処女が書いたシナリオだと。


 「なんなら俺が、教えてやってもいいけど? ただしもう他の男じゃ満足できなくなっても知らないぞ」


 「結構です」


 逃れようとしても、片桐の腕が思ったより頑丈で逃れられない。


 人前で裸になる仕事なので、日々トレーニング事務に通い、体を鍛えていると聞いていたけれど。


 「あとな、お前の過去の作品もいくつか見たけれど、似たような内容ばかりだったな。妄想で書いてるからそういうことになるんだぞ。もっと楽しまないと、この先ネタ切れ濃厚ってやつかも」


 片桐は一応男優として研究してるというか、出演が決まったメーカーの作品にはいくつか目を通してから、撮影に臨むらしい。


 とはいえ今片桐が私にしていることは、ただのセクハラ。
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