魅惑への助走
 「お前、脱ぐといい体しているようだな。そういえば武石さんもそんなこと言ってたような」


 片桐はその手を、私の肩から胸へと移動させ、胸の形を確かめるかのように……。


 「やめてください。男優さんがメーカーのスタッフにセクハラなんて知れたら、出入り禁止になりますよ」


 思わず口にしてしまった。


 「出禁?」


 片桐は鼻で笑う。


 「俺を出禁にして、お前に何かプラスになると思うか? 俺を喜ばせて、ご機嫌取っておいたほうがいいぞ。また俺がお前の作品に出演でもすれば、お前は一躍人気作家に」


 条件が出された。


 このセクハラを耐え忍ぶと、人気男優片桐が私の作品に優先的に出演してくれるという。


 当世若手ナンバーワンとも称される人気男優が、私の作品にコンスタントに……?


 嫌だとは思いつつも、心が揺らぐ。


 セクハラを受け入れた代償に、私は売れっ子作家になれる?


 そんな打算・計算が心の中で膨らみ始めると、セクハラに対する抵抗も中断してしまう。
< 110 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop