魅惑への助走
 打算や下心で体を利用しようとする自分に、苛立ちと怒りを感じる。


 少々生活は豊かになったとはいえ、根底の部分が昔とは何も変わっていない自分。


 なんか悔しくて、ベッドの上に伏せて顔を埋める。


 だけどこうしていても、誰も私を救ってはくれない。


 誰も慰めてはくれない。


 「あ」


 いつからか手で握り締めていた携帯電話。


 間違って着信履歴を表示させてしまい、そこに上杉くんの名前を見つける。


 衝動的に上杉くんに電話をかけていた。


 すでに真夜中過ぎ、とっくに寝ている時間なのに、上杉くんの迷惑も顧みず。


 「……もしもし?」


 八回目くらいの呼び出し音の後、上杉くんは電話に出た。


 やはりもう寝ていた様子。


 「ごめんね。もう寝ていたよね……」


 「こっちは大丈夫。……それより何かあったの?」


 「どうしてそう思うの?」


 「だって……。武田さんの声、なんか震えてる」
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