魅惑への助走
 今思い返すと、過去に私が関係を持った男たちは。


 このようなケースだったら、「今すぐ会いにいくよ」などと告げて、車を飛ばして私の元を訪れて。


 「俺が忘れさせてやるよ」なんて言いながら、優しく激しく抱いてくれたと思う。


 寂しい私は、それを真実の愛などと勘違いしてしまい、ますますのめり込んでいく。


 ……しかしそれらは全て、その場限りだった。


 口先だけの同情と、慰めの愛撫。


 根本的に私を救うことはできなかった。


 上杉くんの対応は、今までの男たちとは違ったため印象に残った。


 「すぐにそばに行くよ」とか「俺の胸で全て忘れさせてやる」などといった、心地良い言葉の代わりに。


 ただ私の話を聞いてくれるという。


 私の気持ちが落ち着くまで……。


 「……ゴメン。大したことじゃないんだ。取引先の人に、ちょっとパワハラっぽいことされて」


 上杉くんの心からの言葉に感謝はすれど、私の本当の職業はついに伝えられなかった。


 真面目な学生だった上杉くん。


 私がAV作ってるなんて知った日には、ドン引きされそうで。


 世間のAV業界に対する偏見は、未だ根強い。


 私は上杉くんを失いたくないと願った。
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