魅惑への助走
***
「あの夜は何事かと思ったよ。真夜中過ぎに震えた声で電話がかかってきて」
数日後。
定時帰宅の日、恒例の夕食に出かけた際、早速上杉くんが切り出した。
「ごめんね夜遅く。寝てたでしょ」
「まだ横たわって、本を読んでいたよ」
それは私を気遣っての、嘘だと思う。
上杉くんはすでに寝ていたのに、私の電話に叩き起こされたはず。
「いつも元気な武田さんがあんな様子で、相当大変な事態に巻き込まれてるんじゃないかって、ほんと心配した」
「重ね重ねごめんね、お騒がせして。もう大丈夫だから」
本当はあまり、大丈夫ではなかった。
あの後どこから探り出したのか、片桐から私の携帯電話に電話がかかってきたのだ。
その際はびっくりしたけれど、すぐに冷静になり、何とか通話を終わらせた。
誘いの言葉ものらりくらりとかわして。
もう口車に乗ったりなどしないと、私は自信を持って言い切れる。
なぜならば……。
「あの夜は何事かと思ったよ。真夜中過ぎに震えた声で電話がかかってきて」
数日後。
定時帰宅の日、恒例の夕食に出かけた際、早速上杉くんが切り出した。
「ごめんね夜遅く。寝てたでしょ」
「まだ横たわって、本を読んでいたよ」
それは私を気遣っての、嘘だと思う。
上杉くんはすでに寝ていたのに、私の電話に叩き起こされたはず。
「いつも元気な武田さんがあんな様子で、相当大変な事態に巻き込まれてるんじゃないかって、ほんと心配した」
「重ね重ねごめんね、お騒がせして。もう大丈夫だから」
本当はあまり、大丈夫ではなかった。
あの後どこから探り出したのか、片桐から私の携帯電話に電話がかかってきたのだ。
その際はびっくりしたけれど、すぐに冷静になり、何とか通話を終わらせた。
誘いの言葉ものらりくらりとかわして。
もう口車に乗ったりなどしないと、私は自信を持って言い切れる。
なぜならば……。