魅惑への助走
 一方私は、プライベートでは男には懲り懲りしていたので。


 甘い愛の生活は、作品の中でだけ発展させられればいいやって感じで。


 合コンなどのお誘いも極力断っていたし、片桐のように仕事繋がりでモーションかけられても無視していた。


 この仕事をしていると男性との接点も多く、出会いの機会がないというわけではないものの。


 リアルの恋愛なんて面倒、っていう意識が先行して、もう何年も恋にはご無沙汰していた。


 ……恋?


 私は再び、冷静に分析する。


 これまで「恋」だと思い込んでいたのは、私の独りよがりばかりだった。


 相手の男はただの体目当てで、誰も私のことを心から必要とはしてくれてはいなかった。


 逆に。


 私は他の誰かのことを、心から必要としたことはある?


 誰も愛そうとはしなかったから、誰にも愛されなかっただけでは?


 その日は終業時間までずっと、小手先だけで業務をこなしながらそんなことを考え続けていた。
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