魅惑への助走
 仕事中でも業務に支障をきたさない限りは問題ないので、上杉くんの都合のいい時にメールしていいよと伝えていたので。


 時々仕事中に携帯が鳴るようになった。


 手が空いた折を見て、返信する。


 こうやってメールを交わしながら、胸がときめくなんて小さな幸せ。


 まるで初恋のように、私はただもどかしさを抱えて日々を過ごしていた。


 「友達以上恋人未満……っと」


 事務作業が一段落すると、次回作の構想を練り始めた。


 これまで思い描いたシーンの断片をまとめ、文章化してパソコンに打ち込んだ。


 真夏に突入しつつあるこの季節に、私が構想を練るのはクリスマス短編。


 クリスマスイヴ、賑わう街角。


 恋人たちが幸せそうな笑顔で、通りを行き交う。


 いつもなら友人や仲の良い同僚に恵まれている主人公も、この夜ばかりは一人。


 イヴを過ごす相手もいないまま、一人の夜をどう過ごそうか思案しつつ携帯電話のアドレス帳をスクロールしていたら。


 学生時代の同級生の名前を、ふと目にする。
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