魅惑への助走
 「お祭りなんて、ほんと久しぶり」


 縁日の会場は、商店街の一角に取り残されたように位置する神社の境内。


 境内の左右に、露店が並んでいる。


 提灯で彩られた入り口から中に入ると、上杉くんは懐かしそうに全景を見渡した。


 「いつ以来?」


 「高校時代の、学校祭以来だったりして」


 高校の学校祭では、上杉くんと同じクラスだった三年生の時。


 クレープ屋さんの担当で、暑い中準備が大変だったのを思い出した。


 店番は交代制で、休憩時間を利用して、他のクラスの出店なども見て回った。


 高校の学校祭とはいえ、近郊一帯を巻き込む一大イベントで。


 学校関係者以外の近隣の子供たちも、たくさん集まって来ていた。


 そして夜は花火大会も。


 「予算の関係で短時間だったし、しょぼい花火だったけどね」


 自治体の花火大会よりはもちろん小規模だったものの、学校祭は高校時代最大のイベントの一つ。


 今でもはっきりと覚えている。
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