魅惑への助走
***


 「ここでいいの?」


 「うん。打ち上げ場所からちょっと離れているから、あまりここで見る人いないんだ」


 上杉くんを連れてきたのは、河原からそう離れていないテニスコート脇のベンチ。


 河川敷を活用して、この辺りにはテニスコート場やサッカー場が設置されている。


 夜間は利用されていないため、そこのベンチに腰掛けて花火を鑑賞することにした。


 「人ごみで狭苦しいより、ここはのびのびできるね」


 上杉くんは手にしていた金魚の袋や食材を、ベンチ脇にそっと置いた。


 今までずっと持ち歩いていてくれたのだった。


 程なくして花火開始を告げるアナウンスが流れた。


 「先輩たちは、ビアガーデン会場から見るって話してた。そこは有料なんだってね」


 商店街のビアガーデン、花火大会の日は桟敷席として有料化される。


 「あの女の人も……上杉くんの先輩なのかな」


 「女の人? 何人かいたけどどの人だろ?」


 「ほら、あの。上杉くんを最初に呼び止めた」


 「ああ。ミキのことか」


 上杉くんが唯一、名前で呼ぶ女の人。


 どういう存在の人なのか、ずっと気になっていた。
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