魅惑への助走
 「ミキは大学の同期だよ。ゼミも同じ」


 上杉くんはあっさり答えた。


 あまりにあっさりしすぎて、


 「それだけ?」


 「それだけだよ。それ以外にいったい何が」


 「昔、付き合っていたとか」


 「え、俺が? ミキと?」


 「……」


 その驚いている様子に、嘘は見られない。


 「まさか。そんな感情、全然ないし」


 それどころか笑い出した。


 「武田さんはどうして、そんなふうに思うの?」


 笑いが一段落したところで、聞き返された。


 「だって上杉くん、あの人のことを下の名前で呼んでる」


 「え?」


 一瞬走った沈黙。


 「私のことは、いつまで経っても名字なのに」


 その時花火大会が開幕したようで、この夜初の花火が打ち上げられた。


 ドーン! と大砲のような音が響いた後、上空でパーンと乾いた破裂音が続き、火の粉がパラパラと舞い散った。
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