魅惑への助走
 「下の名前? あ、ミキってこと?」


 私は頷いた。


 「そっか、それが誤解の原因だったのか」


 また笑い出す上杉くん。


 「どうして俺がミキと付き合ってたって話しになったのかと思いきや、原因はそれか。ミキ……。確かに下の名前だって考えるよね」


 「どういうこと?」


 「ミキは美しい木、美木って書くんだ。つまり名字なんだけど。下の名前はトモミだったかサトミだったか……忘れた」


 「え!?」


 思い込みが原因の誤解だった。


 完全に私の一人芝居で……馬鹿みたい。


 それから上杉くんはあれこれと、美木さんの話をしてくれた。


 同じ学科で同じゼミ。


 同じ目標を持って頑張る、友人そして同志のような関係だったと。


 そして同時に司法試験を受験。


 現役で合格した美木さんに対し、上杉くんは未だに浪人中……。


 「あのグループの中に、インテリっぽい男の人いたでしょ。あれが美木の彼氏」


 「そういえば……」


 眼鏡をかけた、クールで知的な人が確かにいた。


 上杉くんと美木さんの、ゼミの先輩だったという。
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