魅惑への助走
 「上杉くんが相手の戦意を喪失させてくれたおかげで、」


 「ああ、あれ?」


 上杉くんは苦笑した。


 「相手はごついし三人連れだし。喧嘩になったら勝ち目ないって、瞬時で判断できたから。先輩たちが近くに居るの知ってて、援軍が到着するまでの間、時間稼ぎをする目的でね」


 そんなことを打ち明けながら、恥ずかしそうにこう締めくくった。


 「俺、ヘタレなんだよ。喧嘩なんてしたことないし」


 「いいよ、そんなこと」


 身を寄せたまま私は答えた。


 「力自慢をする男って、ろくな人いないし。平気。自分の身は自分で守るから」


 強い男に守られたいという、女の子特有の憧れは、私にだって存在する。


 だけどこの頃の私は、上杉くんを守ってあげたいという母性のようなもののほうが先行していた。


 「でも一人じゃ心細いから、たまにはこうさせて」


 再度強くもたれた。


 そして空を見上げると、打ち上げ花火が夜空を彩っていてとても綺麗。


 空を見上げる私の肩を、上杉くんがそっと抱き寄せてくれたのを感じた。


 ただしそれは、とてもぎこちなく。
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