魅惑への助走
 ……。


 花火の音が途絶え、花火大会終了を告げるアナウンスが耳に届いた。


 「気をつけてお帰りください」との一言の後、周囲はざわついてきた。


 花火に集まった人たちが、家路に着き始めたのだろう。


 「天気にも恵まれ、最高だったね~」などと口々に花火の感想を語り合っている。


 人通りが多くなったので、これ以上ここでいちゃついてはいられず、私は上杉くんから身を離した。


 それだけでは燃え上がった熱は、静めようもなく。


 「これから……私の家に来ない?」


 「え?」


 「……」


 私の意図するところを程なく理解したようで、上杉くんは言葉を選んでいた。


 「……いや、あの。それ、金魚。これから飲みに行きたかったんだけど、金魚をあまり長時間持ち歩けないと思って。だから私の家で宅飲みなんてどうかなと」


 沈黙に耐え切れず。


 男を簡単に家に連れ込むような、軽い女だって誤解されたくなくて。


 つい上杉くんが持ち歩いている金魚を口実にしてしまった。
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