魅惑への助走
***


 「先にシャワー浴びていて。その間に私、準備や片付けやっておくから」


 家にたどり着いて早々。


 有無を言わせず上杉くんを、バスルームに押し込んだ。


 部屋に連れ込む展開は、さすがの私でも予想していなかったので。


 若干の片付けをしなければならない。


 「でも俺、タオルも何も。それにお風呂セット類もないし」


 「タオルは贈答品があるから大丈夫。シャンプー類はバスルーム内にある、私のを使って」


 AV撮影の際にバスタオルは無数に使うため、馴染みの業者からまとめ買いしている。


 そのツテで新品をプレゼントされることがあり、自宅に来客用として保管していた。


 最近はここを訪れるような男もいないし、友人とも外で会うので、使われないままタンスの肥やしと化していた。


 ……そうだ、私物。


 来客が途絶えたのをいいことに、私物が室内に散乱している。


 AVの台本やら、サンプルのDVDなど。


 仕事がバレる、いやそれよりもむしろ、私がそういうものを閲覧する趣味があると誤解されてもまずいので。


 AV関連グッズは、見えない場所に全て大急ぎで隠した。
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