魅惑への助走
***


 「あら、明美ちゃんにしては珍しくコーヒー。しかもブラック」


 翌日、SWEET LOVEのオフィスにて。


 コーヒーよりもペットボトルの緑茶やウーロン茶をよく飲む私が、缶コーヒーのブラックを購入したため、隣の席の榊原さんは意外そうに私を見た。


 「はい。今日は眠気防止に」


 わが社では、誰かの負担にならないよう。


 社員は飲み物を、廊下にある社員割引自動販売機にて、各自好きな時に買いに行くことになっている。


 「あらら恋わずらい? それともまさか夜遊びとか」


 「いえ、次回作のネタが、寝る前に思い浮かんできて。考えていたら眠れなくなってしまって」


 久しぶりに男と体を重ねたから、気持ちが高揚していたのもあったと思う。


 それに加えて、ネタまで思い浮かんでしまって。


 気が付いたら寝ちゃっていたものの、朝起きるのがつらかった。


 食べ物を準備していなかったため、朝食抜きで上杉くんを追い出さなければならなかった。


 駅まで一緒に歩いて、上杉くんは電車で一旦家に戻り。


 私はそこから徒歩で、SWEET LOVEのオフィスへと向かった。
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