魅惑への助走
 ろくに寝ていない状態で、仕事に臨んでいた。


 確かに眠くてたまらなかったけれど、この当時はまだ20代前半で若かったためタフで、居眠りをすることなく切り抜けた。


 カフェイン入りの飲み物を、繰り返し飲みながら。


 午後三時を過ぎ、そろそろ強烈な西日が窓から射し込んでくる。


 席を外して窓辺に向かい、ブラインドを閉じて眩しさをしのいだ。


 (あ、メールだ)


 席に戻ると、携帯電話にメールが届いていた。


 上杉くんからの……。


 「今晩も会える?」


 「……」


 会いたくてたまらない。


 今まで気持ちをずっと抑えていたのに、一線を越えてしまうとほんと歯止めが利かない。


 今日も定時に帰宅できそうなので、中間地点で待ち合わせをしてまずは食事でもして。


 逆算して待ち合わせ時間を確定して、メールを送った。


 オフィスの近くだと職場がばれる危険性があるため、ちょっと離れた場所で合流。


 「明美ちゃん。構想は練られた?」


 今晩の逢瀬に想いを馳せていたところ、松平社長の一言で現実に引き戻された。
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