魅惑への助走
 「それは一朝一夕には解決できない問題ですので。周囲に好奇の目で見られないよう、パッケージは一見してもアダルト作品だと分かりにくい、シンプルな作りとして。発送ではまずい人たちのためには、今後はダウンロード販売してお楽しみいただくシステムを準備中でして、」


 「やっぱり無理でしょ。エロビデオは所詮、男の娯楽なんだから。女の人にはアイドルとか海外ドラマで十分じゃないの?」


 店長は聞く耳を持ってくれない。


 いや、この店長が特異で偏狭な考えの持ち主というわけではなく。


 この当時は、アダルト製品を扱う業者の間ではそれが、共通の認識だったかもしれない。


 アダルトビデオとは、男が性欲を解消するために利用するもので。


 女はアダルトビデオで「学習」した男に、楽しませてもらっていればいい。


 女にはアダルトビデオの需要はないし、売れない。


 「ですが主演男優が素敵だったら、自らの生活充実のために、鑑賞する女性も」


 「男優は顔を出さないのが常識でしょ。一部の人気男優を除いては」


 「だから男優をクローズアップしたのが、女性向けAVの、」


 「ところであんた、AV女優さん?」


 社長の熱弁を遮り、店長はいきなり私に質問してきた。
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