魅惑への助走
 「いえ。先ほどお渡しした名刺の通り、私はアシスタントディレクターでして、」


 突然話を振られて驚いたものの、慌てて否定したのだけど。


 「ああ、ADってなってるね。AVに見えたよ。結局、スタッフ足りないから、兼ねてるだけなんでしょ?」


 「違います、スタッフが慢性的に不足しているとはお話ししました通りなんですが、私は出演は……」


 「なんだ、違うのかい」


 店長は不満げな表情で私を見た。


 「あんた若いしいい体してるから、てっきり本業は女優さんかと思ったけど」


 このように営業の場に出ると、先方からセクハラまがいの言動を受けることが多いため。


 下手に相手を刺激しないよう、最近はパンツスーツで回るようにしていた。


 それでも外は炎天下で暑いので、上着を脱ぐと、薄手のブラウスからどうしても体のラインが相手に見抜かれてしまう。


 私の顔や体をアピールするのではなく、SWEET LOVE製品の営業に訪れているのに。


 こうして「女優さんかい?」「出演すればいいのに」などといった冷やかし、セクハラまがいの言葉を浴びせられることが多く、悔しかった。
< 229 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop