魅惑への助走
 「男女差別を受けたの? それともセクハラ、パワハラの類?」


 「うちの会社での話じゃない。……世間一般の話」


 「社会の偏見、とか?」


 「まあそんなところ」


 「……男女雇用機会均等法が施行されて、もう四半世紀になろうとしているにもかかわらず、真の男女平等にはまだ程遠いのが現状だよね」


 上杉くんは語り出した。


 この手の法律の不備に関する問題点を、熱く語ることが多い。


 「平等との名の下に、女性に男性並の仕事を強いる。若くて体力のあるうちは可能でも、妊娠出産育児子育てを迎えるとどうしても無理が生じる。その時になって、仕事ができないからと退職を余儀なくさせるケース、本当に多いんだよね」


 語っているうちに、上杉くんもビールの消費量が増えている。


 「とはいえ無理して仕事を続けて、急に休んだりされても、周囲にしわ寄せが行く。社会全体でもっと考えていかなければいけない問題だよね」


 「不景気でギリギリの人数でどこもまかなっているから、この手の問題がなくならないのかもしれないね……。ところで、」


 話題が微妙にずれていたので、元に戻すことにした。
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