魅惑への助走
 ……所変わって、ここは私のマンション内、ベッドルーム。


 かなり飲んでふら付いていた私を、上杉くんはここまで連れてきてくれたので。


 介抱という名目で一緒にお風呂に入り、そこでもいちゃいちゃして。


 さすがにマンションのバスルームは狭いため、ベッドまで連れてきてもらった。


 キスから始まり体のあらゆるところを触れ合い、そろそろ繋がろうというタイミングで。


 「明美を取り囲む苦しみの全てを、俺が吸い取ってあげられたらいいのに」


 優しく抱きながら、唇で私に触れる。


 首筋、胸元、そして……。


 初めて体を重ねてから、いくつかの夜を越えて。


 上杉くんは私がより感じる場所を、少しずつ分かってきている。


 どこに触れたら、さらに甘い吐息が漏れるか。


 ……この頃の私は、だいぶ仕事にも慣れ、軌道に乗り始めていたのだけど。


 自分のやっていることがなかなか社会に受け入れられなくて、常に憂鬱を抱えている状態だった。


 SWEET LOVEの社員同士でやけ酒を食らいつつ、愚痴を言い合うくらいしかストレス発散手段もなく。


 そんな私のささくれ立った心を、いつも優しく包み込んでくれていたのが上杉くんだった。


 詳しくは語ることはできなかったものの、断片的に私が口にする愚痴を黙って聞いてくれて。


 優しくぬくもりを与えてくれて。


 そのまま甘い夜へと導いてくれる。


 それだけでよかった。
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