魅惑への助走
 私たちは付き合い始めてから、私の部屋で半同棲状態同然の毎日。


 だけど本格的な同棲生活には至らずにいた。


 上杉くんの勉強道具を運び込むのが面倒だったのと、模擬試験前などは勉強に集中してほしくて、完全に入り浸るようになるのは避けたかった。


 私も平日の昼間は、部屋を空けている。


 金目の物は大してあるわけじゃないし、上杉くんを信用していないわけでもない。


 だけど私の不在時に、上杉くんに常にいられるのは不安だった。


 ……アダルトグッズが、見つかる恐れがあるから。


 部屋のあちこちに隠してある、アダルトDVDや大人のおもちゃ。


 それらが何らかの拍子に上杉くんの目に留まり、そこから私の仕事がバレる原因となってしまうのも怖かった。


 「……合鍵は、もらうわけにはいかないよ」


 私の不安とは裏腹に、上杉くんは合鍵を受け取ろうとはしなかった。


 「どうして? あれば便利じゃない? ……私たち付き合っているんだし、上杉くんも鍵があったら楽じゃない?」
< 238 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop