魅惑への助走
 「もし明美の留守中に、俺が勝手に入って。その際何かトラブルがあったらまずいよ」


 「トラブルって?」


 「お金や金目の物がなくなったりだとか。たとえ俺がやったんじゃないにしても、疑ったり疑われたりってことになるし、そうなったら残念だしね」


 「まさかそんな」


 「今はまだ正式な家族ってわけじゃないから、けじめを付けた付き合いがしたい。この部屋に入るのは、明美と一緒の時限定で」


 家族。


 その一言に胸が高鳴る。


 私と上杉くんが家族になれるのだとしたら、結婚する時より他にない。


 そう遠くはないと信じていたその時を思い浮かべてしまうだけで、私は……。


 「そろそろ行かなきゃ」


 そんなことを口にした矢先から、再びベッドに潜り込んで。


 上杉くんにまとわり付きながら、その唇を貪っている。


 せっかく施したメイクが崩れそうなくらいに。


 身にまとったスーツが疎ましく、全て脱ぎ捨てて裸になって抱き合いたい。
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