魅惑への助走
 「明美、もう行かないと」


 体の奥からこみ上げる疼きを抑えられないまま、朝から求める私を止めたのは上杉くんのほうだった。


 「続きは明日の夜……たっぷり」


 今晩はロケで遅くなる予定なので、上杉くんには会えない。


 「そんなに待っていられる?」


 「明日は明美、休みだよね。明日は時間を気にせずに……できるから」


 「……分かった。待っててね」


 ベッドを去る際に、最後のキスをして。


 私は出かける準備を再開した。


 「鍵は新聞入れに投函して。あと金魚のエサ、よろしくね」


 「了解」


 結局この日は、私が慌しく出かけなければならなかったため。


 上杉くんはもうちょっとベッドで寝ていて、それから鍵を閉めて帰ってもらうことにした。


 合鍵は持ち帰らず、新聞受けから戻しておくと。


 そして金魚。


 あの日、私たちが初めてこんな関係になった夜。


 その際お祭りでもらった金魚は、結局私の部屋で飼うことになっていた。


 さらに上杉くんの家まで運ぶのが面倒だったのもあり、上杉くんが面倒を見る約束で、私の部屋にそのまま置いておくことになっていた。
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