魅惑への助走
 「ていうか明美ちゃんも、かなりのチャレンジャーだね。今度の役柄、俺のキャラと180度異なる」


 今日は撮影に入る前に行なうミーティング。


 SWEET LOVEのスタッフと片桐との、撮影に向けての打ち合わせ。


 片桐は私が執筆した台本をめくりながら笑っている。


 「マジかよ。笑ってセリフが頭に入んない」


 片桐が笑いを堪えられないのも無理がないかもしれない。


 何しろ今度の作品は、片桐はイメージとは対照的な内気で控えめな役柄。


 そして年上の積極的な女性に、強引に奪われ……という設定。


 「俺がこんな役を演ったら、白々しくてクレーム来るんじゃないの。不倫スキャンダルのアイドルが清純派を演じるようなもんで」


 内容に難色を示している。


 ……台本を書き上げた時、松平社長も一瞬表情が翳った。


 おそらく社長が考えていたものと、全く異なる作品だったから。


 それでも一応、片桐に提出しようって結論に至ったのだった。


 イメージではない、しかも過去の出演作品で演じた役柄からすると完全に異色ともいえる今回のキャラクターに対し、片桐自身がどう反応するか?
< 243 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop