魅惑への助走
 「相手役はりらさんだな。りらさんに襲われ、ウブな俺は初めてを奪われるのか」


 りらさん、とはベテランAV女優。


 片桐も一目置く存在。


 とはいえベテランとはいってもまだ25歳で、私とは一歳しか変わらない。


 スタッフとしてはまだまだ若手な私に対し、同世代にもかかわらずりらさんはベテランの領域。


 それだけAV女優は、入れ代わりが早いってことなのだけど。


 「りらさんに初めてを奪われるのは楽しみだけど、俺のキャラじゃないしどう演じればいいのやら」


 片桐は外見からして遊び慣れた雰囲気で、演じる役柄もプレイボーイや遊び人ばかり。


 「明美ちゃん、演技指導はよろしく頼むよ。手取り足取り」


 「片桐さんは今でこそ、経験豊富なAV男優ですが。片桐さんだって昔は、未経験だった時代もあったじゃないですか。その当時のことを思い出しながら演じてください」


 「ほ」


 私の指摘が片桐には意外だったようだ。
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