魅惑への助走
 「覚えてないなあ。もうずっと前のことだし」


 「初体験の思い出くらいは、記憶にありますよね」


 「う~~~ん何となく。捧げたんだったか、それとも奪われたんだったか」


 相手と場所は覚えているけれど、どっちから誘ったとか誘われたとか、そういう細かいシチュエーションは記憶にないと語る。


 「誰もが最初は経験がないんですから、緊張しないわけはないじゃないですか」


 「友達から借りたビデオで予習していたから、心の準備はできていたかもしれない」


 片桐が初体験のドキドキを上手く表現できるか、一抹の不安はあったものの。


 私が準備した台本、そのままでいいと言うので、ほとんど修正なしで私のアイディアが採用される運びとなった。


 ちょうど実生活で実践していた、経験のない男の子を自分好みに「調教」していく楽しみ。


 そういう恋も一つの形として、表現してみたかった。
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